マイケル・ルイス著「ライアーズ・ポーカー」を読んだよ。


ライアーズ・ポーカー

アメリカも日本もあんまり変わらねーな

マイケル・ルイスって聞いてもパッと、「あーあの人ね」って思い出せる人って少ないと思うんですが、ブラッド・ピット主演で映画化された「マネーボール」は知っている人が多いと思うんです。
その作者の人です。

そのマイケル・ルイスさんがソロモン・ブラザーズに入社し、たった入社3年目でボーナスが今のドル円レートで換算すると2500千万近い金額を受け取るまでになったが、ウォール街の人々の気質にとことん嫌気がさし、作家に転進、作家として、ソロモン・ブラザーズでの経験をまとめたのが、この「ライアーズ・ポーカー」だ。

ライアーズ・ポーカーとは、お金に印刷されている通し番号を利用して行う一種の騙し合いゲームのことで、おそらく、当時ソロモン・ブラザーズにいた、ジョン・メリウェザーがこのゲームにめっぽう強かったこと、つまるところ、投資銀行の中では、市場の弱者を相手に騙し合いをしているということから、このタイトルが名付けられたのだと思う。

この本を読んで感じたことを正直に記載すると、
投資銀行って騙し合いなんだね!人間は全うに生きてお金を稼ぐに限るね!とフツーの感想になってしまうんだけれど、それだとつまらないので、自分が興味を引かれたことを2つほど書いておきます。

アメリカにだって就活あるじゃん

なんか日本で就職活動の話になると、海外ではこんな就職活動はない!みたいな論調をたまに見かけますが、とんでもない!
日本の形式とは全く違うけれど、向こうにもそれっぽい活動はあるようです。
マイケル・ルイス氏がソロモン・ブラザーズに入るきっかけはなんと、イギリス王室のパーティに幸運にも出席することができ、そのパーティで同席したご婦人が、たまたまソロモン・ブラザーズの重役の奥さんで、その奥さんのツテでソロモン・ブラザーズの重役とコネができたというところから始まります。
しかし、ただ、コネがあるだけでは入社は難しいらしく、それ以降もソロモン・ブラザーズの人と会ったりして人脈を作り、入社に至ったことが記載されています。
そのほかにも、他の銀行の入社面談を受けたり、そこで酷い圧迫面接を受けたりだの書かれているので、決して就活で苦労するのが日本特有のものでないことが分かります。
これ、結構ショックでした。
なんか、散々日本の就職活動が叩かれているので、きっとアメリカでは万人に職が開かれていて、実力さえあれば何とかなると思っていたんですが、日本とそんなに事情は変わらないみたいです。
どの大学を出ているか、専攻は何だったかでかなり選別されてしまうようで、大学時代美術史を専攻していたルイス氏は、他の銀行の面接で悪戦苦闘しています。
結局、日本の就活が酷いって言っている人って、隣の芝生は青い理論なんじゃないかと思ってしまいました。

ただ、ちょっと違うのは、アメリカの大学って、学期中はあんまりバイトとかしないで、長期休みになると企業にバイトしにゆくっていう感じなのかなってところですね。
ルイス氏の例ではないですが、他の有名銀行に入った有名トレーダーの話なんかでは、夏休みに銀行で働いて顔が売れたので、卒業と共に就職できたみたいなエピソードが書かれている本もあったりしました。

ブラック企業も真っ青な働き方

これも、隣の芝生は青い理論のようなものか、と思ったのですが、ソロモンのような投資銀行の働き方は今の日本のブラック企業真っ青です。
朝6時過ぎには出社して、必要な情報を仕入れたら、顧客に債権を売りまくる、どんな手段使っても、嘘をついても売りまくる。そして手数料稼ぐ。別に帰る時間が決まっているわけでもない。
と、日本のブラック企業並みの働きっぷりです。
ただし、頑張れば頑張っただけ、たった3年目の社員でも2000万円プレーヤーになれるっていうのが、日本のブラック企業とは違うところでしょうか。
うさんくさい金ですが、無いよりはまし。
ただし、ワークライフバランスなんていう言葉は何処吹く風。
会社の上層部に至っては、土日も働いているような雰囲気。
もちろん上層部も自分の稼いだ金じゃないのにも関わらずがっぽりもらってますが。

日本の企業が酷いっちゃー酷いんですが、アメリカの名だたる企業もそれなりにブラックとは驚きました。
アメリカ人って元々ワーカホリックなところがあって、働くときは働きづめて、休むときにはとことん休むみたいなイメージではあったんですが、それがなおさら強化されました。

なんか、日本人が海外の働きっぷりを語るときは、給料が高い割にワークライフバランスがしっかりしている見たいな切り口で語られることが多いように思うんですが、少なくともこの本読む限りではそんなことないですね…もちろん、この本は1990年前後の話なので、今は改善しているのかもしれないですが。

ただ、稼ぐ人たちが稼ぎまくって仕事しまくる一方、貧富の格差が激しいのもアメリカ社会の社会問題なので、本当の意味でブラック企業的企業が存在しているのかもしれないです。少なくともこの本には書かれてなかったですが。

ライアーズ・ポーカー

まとめ

1990年台のアメリカ人の働き方は、そんなに今の日本人とは変わらない。
給料は凄かったみたい。
でも、この本からは貧困層の雇用問題は分かりませんでした。

しっかし、この人、美術史を専攻して投資銀行に入った割には、文章上手いですわ。
翻訳が適切っていうのもあるのかもしれないですが、目の付け所と切り口、構成が秀逸だと思います。
あと、こういった記事を書くことを想定していたのか、事細かにメモを取っていたようで、投資銀行というハッキリ言うと市場弱者をいかにだますか、という黒い世界の一部が垣間見えるのでなかなか貴重な本となっています。

金融業界を描いた本って、どちらかというとジャーナリストが書くことが多いので、どうしても客観的に過ぎるところがあり、本当の意味での本音でいろいろ書きまくる人は珍しい(業界の人はほとんど業界に残り続けるので、どうしても暗部については語りたがらないんですよね)ので、この手の業界の内情を知る貴重な1冊です。

投資系の活動をしている人であれば、絶対に読んでおくべき本です。