【ネタバレ注意】スティーブン・キングの「ミザリー」は最高傑作です

ミザリー文庫本

一度読み出したら止まらなくなる小説を1つあげろって言われたら、真っ先にこの、スティーブン・キングの「ミザリー」の名前を言います。

それほど素晴らしい小説です。
※写真は第7刷の装丁です。現在はちがうものになってます。

あらすじ

女性に人気のメロドラマ的な小説「ミザリー」の作者ポール・シェルダンは実は純文学志向の作家であり、カジュアルでメロドラマ的な内容の「ミザリー」が好きではなかった。ポールはミザリーを葬り去り、純文学の作品を執筆。ミザリーの最期の小説を上梓した後、休暇に出かけるのだが、その途中に自動車事故に遭遇してしまい、辛くも人に助けられる。
そのポールを助けた、アニーは異常なほどのミザリーマニアであり、元看護婦である。そして、精神異常者であり、殺人者でもある。
元看護婦のアニーの家に軟禁状態に置かれたポールは、発売された最新版ミザリーでミザリーが死んだことを知ったアニーの命じるがままに、虐待されつつも、ミザリーものの新作を書かされる。
てなかんじです。

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映画版との違い

この作品、ロブ・ライナーが映画化しており、アニーを演じたキャシー・ベイツの好演もあって、映画版の方が有名じゃないかと思うんですが、映画版より断然小説の方が面白いです。
映画版では、老警官がアニーによって射殺されていますが、小説板だと、殺害された警官は若手の警官であり、殺され方も、手を芝刈り機で切断される、背中に杭を突き立てられるとかなり散々な殺され方をしてます。
あと、ポールに対する仕打ちも、映画版だと、足首をハンマーで折られていますが、小説板だと足首を斧で切断されています。しかも、親指を小さい電動のこぎりで切断されすらしてます。
さすがにビジュアル的に映画化するのは難しい感じですね。
これがあるから、アニーの異常性やクライマックスに向かう緊張感の高まりという演出ができ、そして、最期の開放感が絶大なものになるわけですが、さすがにそこまで映画では表現できなかったというか、なんというかです。

なぜこの小説が凄いのか

スティーブン・キングと言えば、どちらかというと超常的な何かに対する恐怖を描いていますが、この作品は「日常に潜む恐怖」を描いています。それだからこそ、本当の恐ろしさがあるわけです。
超常的な何かは、その何かを信じるか否かによって、喜劇にもなってしまう危険をはらんでいるわけで、「日常に潜む恐怖」に焦点を当てたキングの着眼点は素晴らしいと思うわけです。

そして、この作品で舌を巻くのは、この小説が、ほとんど、アニーの家の、しかもほとんど一室を舞台に書かれていることです。この作品は文庫版でも500ページもあります。
ミザリーという小説の中に、もう一つのミザリーという小説も書かれているので、少しかさ増しされていると考えることもできるんですが、部屋の一室を舞台にして、この量を書き、しかも中だるみをさせることなくぐいぐい読者を引き込んでいくキングのストーリーテリングの巧妙さに本当に驚愕させられます。
読み進めれば読み進めるほど、「一体次はどうなるんだろう」という思いから、読むのが止まらなくなります。

そして、ポールの絶望・身体的な苦痛・精神的な苦痛・感情などをリアルに感じることができ、感情移入すらさせる話の展開には目を見張るものがあります。

あと、この小説、翻訳も上手い。
矢野浩三郎氏の翻訳がテンポ良く、次から次へと読めてしまいます。
原書を読んだことがないので、どの程度まで意訳されているかわからないのですが、かなり素晴らしい訳で、全く違和感を感じさせません。
この手の翻訳って、たまに本当に原本ではこう書かれていたのか?と疑問に思うところがあるんですが、それを全く感じさせません。おそらくかなり勢いがあるため、いちいちそれを感じさせない圧倒的さがあるんですよね。

いろんなキング作品を読みましたが、この作品が最高傑作だと思います。
是非オススメしたい作品です。

あ、痛いのが苦手な人はやめたほうが良いです。
かなりリアルにポールの苦痛が伝わってきますので。