マイケル・ルイス著「マネー・ボール」を読んだよ

moneyball

固定概念をひっくり返すのは難しい

「ライアーズ・ポーカー」の作者の本です

マイケル・ルイスの本として、前回「ライアーズ・ポーカー」を紹介しましたが、マイケル・ルイスはこちらの「マネー・ボール」の方が有名なんじゃ無いでしょうか。

「マネー・ボール」はブラッド・ピット主演で映画化までされていますしね。

今回読んだのは、映画化された「マネー・ボール」の原作本の「完全版」です。
何故「完全版」なのかは、後で説明しますね。

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あらすじ

簡単にあらすじでも。

野球の話です。
オークランド・アスレチックのGMであるビリー・ビーンは「どうすれば野球に勝てるか」を徹底的に科学的に調べ上げて、「マネー・ボール」という手法を駆使し、実際にその手法により、他の球団から「安い」と思われ、目にかけられていない選手を他球団から引き抜き、地区優勝してしまうというお話です。

何が正しいか分からない状態

野球に関する指標は各種あります。
投手で言えば、防御率・与四球・被安打数などなど。野手で言えば、本塁打数・打率・エラー数などなど。
どの数字が高ければ良い選手かどうかについてのデータ解析は非常に曖昧で何が本当に役立つデータなのか、本当には理解されていない状態であることを、ビル・ジェイムズという人物が「発見」することから、「マネー・ボール」はスタートしている。

ビル・ジェイムズは、野球を「27アウト取られなければ終わらないゲーム」と定義づけ、本当に必要な指標は一体何なのかというところを突き詰めた。
先には挙げなかったけれど、野手の「出塁率(何でも良いから1塁に出る確率)」が100%の選手が9人いたらどうだろう?とシミュレートしてみる。すると、ゲームは終わらない、つまり、得点は無限大となる。
では、「本塁打率」が30%(それ以外はアウト)となってしまう選手が9人いたらどうだろう。
得点は、たかだか有限なので、出塁率の方が、本塁打率よりも大切だと言うことになる(もちろん、この場合、本塁打率100%にしたら、特典無限大だから、本塁打率の方が…という言い方もできるけれど、大体、出塁率の方が本塁打率よりも大きいことが多いので、出塁率を指標に持ってくる方が「現実的」ということになる)

そして、ビル・ジェイムズは、次々と今までは重要視されていた指標が、実は重要では無く、他の指標の方が重要であることに「気づく」
しかし、その「気づき」は、当時の野球の「常識」(と考えられていたこと)から、乖離していたため、とことん無視される。
(もちろん、受け入れたファンはいるけれど、実際に球団経営に役立てた経営者はいなかった)

それに目を付けた、ビリー・ビーンが、その手法で選手を見てみると、必要な選手ほど「安い」ことに気づく。つまり、球団に評価されていない。
当時は、どちらかというと、パワーのある野球が重要視されていて、四球を選んでも良いからとにかく塁に出る、アウトになる可能性が少しでもある盗塁は絶対にさせない、といったやり方は受け入れられなかったのだ。

しかし、ビリー・ビーンは、その「常識」を徹底的に無視して、野球に対する「合理的な」判断だけを元に、選手の強化とゲームの展開を推し進める、そして、「安い」資金で、地区優勝さえしてしまうのだ。
(この年の各球団の成績は、投下した資金金額と反比例したらしい)

合理的に物事を考えてみる

自分が、感動したのは、この徹底的に合理的に物事を考えてみる、冷徹なまでに、という所だ。
もちろん、当時の球界は、徹底的までにビリー・ビーンの考え方には否定的で、どんなに勝っても「まぐれ」という烙印を押して、現実を合理的に見ようとしない。
しかし、ビリーは徹底的にこの方法を推し進め、ついには地区優勝してしまうという事実に感動した。

ただ、合理的なのが常に「よい」わけではない、合理的で無いと見なされた選手は容易にトレードに出されてしまうし、もちろん今までの「常識的野球観」の中で生きてきた野球選手には、ビリーの考え方は奇異に映り、理解できないということもある、合理性がいつも人を幸せにするとは限らないけれど、ビリーは自らの信念を貫き通し、「常識」に勝利する。

実に胸打たれる内容だ。

今まさに「常識」と考えられていることに対して、ふと立ち止まって、よく考えて、「合理的な立場から」、「No」と言うことの重要性をこの本は教えてくれる。

怪しげな、ビジネス書を読むくらいなら、この本をオススメしたいです。

あと、マイケル・ルイスはやっぱり文章が上手い。(訳者のおかげかもしれないけれど)
ぐいぐいと引き込まれて、ほんと一気に読んでしまった。

何故完全版か

最初、「完全版」の文字を見たときには、最初の版では端折られた部分でもあったのかな、と思っていたのですが、この本が発売されたことによる球界の「騒ぎっぷり」が収録されています。
それで完全版なんですね。

この本が、当時の球界の「常識」を片っ端から覆す内容だったため、「常識」を信奉する人々から総攻撃を受けます。
まるで、1つの宗教が否定されてしまったかのような騒ぎっぷりです。
(ルイスは、「宗教戦争」って呼んでます)
それも当然で、今まで信奉してきたものがすべて否定されてしまうんです。
そりゃ、信者達の反論は徹底してます。
しかし、オークランド・アスレチックスの勝利という事実は覆せないんですけれどね…

余談

自分も、これと似たような経験がありまして、仕事である職場の古い体質を指摘したところ、ベテラン勢から総攻撃を受けてしまったことがあります。
もちろん、「根回し不足」「説明下手」などなど反省点は多々あるのですが、過去の成功体験がこれほどまでに強固で反論の余地のないものだとは思ってもみませんでした。

明らかに「論理的で無い考え方」に人は固執して、不合理な考え方を通してしまうものです、過去の成功体験という名の下に。
もちろん、論理的な考え方が総じて正しいわけではありませんが、固定観念にとらわれて事実を事実として直視しないものの見方には本当に辟易させられました。
自分だけでも、そういう物の見方からは離れて、いつでも「常識」をまず疑ってみるという見方を取りたいと思っている次第です。