大きすぎてつぶせない「リーマンショックコンフィデンシャル」を読みました


リーマンショックコンフィデンシャル

2008年に起こったこと

2008年といえば、もう6年近くも前のことですが、この年の夏にアメリカのウォール街では様々な問題が起きました、サブプライムローンを端に発する、金融危機です。
サブプライムローン問題を扱った本では、「世紀の空売り」なんかが有名ですが、こちらは、サブプライムローンから派生した現代アメリカ最大の金融危機、リーマンショックの全貌を描き出した本です。

当事者200人に取材を行い、あのとき何が起きたのか、できうる限り客観的な事実から(もちろん当事者の証言のため、主観的事実が入り込んでいることは否めないですが)、当時の現場の混乱ぶりを描き出しています。

現代金融問題の根深さは、社会に与える影響が余りにも大きいのにもかかわらず、その潜在的リスクを誰も定量化して知ることができないということに凝縮されていると思います。
事実、この本の中に出てくる各銀行の最高経営責任者たちは、自分の銀行は健全だろうと最後の最後まで思っていました。他の誰から観ても、ポートフォリオもエクスポージャも不健全であるのにもかかわらず、「自分の所は大丈夫に決まっている」という強い思い込みから、必要で有効な決断が下せなかったということがあります。

そのため、経営不振が表面化して、株価が下がっても「空売りによって不当に株価が下げられている」とか「経営は問題無いのに何故か株価が下がってしまっている」と本気で考えてしまう訳です。

それほどまでに、現代金融は複雑怪奇で、コスト計算が難しいという、言ってしまえば爆弾を抱え込みながら発展し、それが、サブプライムローンで導火線に火が付き、リーマンショックで爆発したと考えることもできます。

この本では、そこまでテクニカルな内容を扱いませんが、その放漫やるかたない銀行の経営陣たちが、最後の最後まで自分たちが有利になるようにことを進めていった結果、事態が余計に悪化し、ことが最悪の状態になるまで確固たる行動を起こせなかったことが克明に描かれています。

「Too Big To Fail」

それは、この本の原題である「Too Big To Fail」(大きすぎてつぶせない)というところからも分かります。
各銀行の経営陣は、自分たちが余りにも大きな存在になっており、自分たち無しには、現代社会が成立しえないことを知っています。そして、このチキンレースを乗り切れば、政府からそれなりの救済が降りるのでは無いか、といった思惑を巡らせるあまり、すべての対応が後手に回ってしまったのです。
(何らかの行動は前から起こしてはいたが、安く見られるのが憚られた為、思い切った確固たる決断が下せずじまいだった。相手に弱いところをみせたくないという心理から)

この本を読んで、改めて驚いたのは、正確なリスク管理を難しくしてしまう、現代金融工学から生まれたデリバティブ商品と、そのリスクを全く知らず、稼げるだけ稼ぐということを美徳にしている集団が厚顔無恥の状態で生活しているということです。
そして、何かあったら、大きすぎてつぶせないという暗黙の了解のもとで、自分たちの保護を求めるという恐ろしさ。
それまでがっぽり(数十億ドル単位での給料)貰っておきながら、いざ経営がまずくなっても1円たりとも損せずに、それまでの稼ぎを返還しもしないで、政府からの援助を求めるという、やりたい放題の経営陣。

んーまさに「貰えるものは貰っとけ、そして隠しちまえ」の精神です。
こんな連中が責任を追及もされず、今まで受け取った給料でウハウハ言っていると思うと、なんだか残念な気持ちに。
リーマンショック以降日本もかなりの打撃を受けて、現在のような状況があるわけで、とても海の向こうで起きた複数の銀行の不祥事、とは割り切れないものがあります。

リーマンショックの影でどんな緊迫のやり取りが為されていたかを知る手立てとしては最高の良書だと思います。

ただ、テクニカルな解説が一切されていないので、サブプライムローンの危うさを主軸に展開する本としては「世紀の空売り」、金融派生商品の危うさ、とりわけクォンツと呼ばれる人々のリスクテイクの危うさについて書かれた本として「ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち」という本をオススメしておきたいと思います。
上記2つの本については、そのうち書評を書きたいです。